インクジェット印刷とは、家庭用から商業用まで幅広く普及している印刷方法のひとつです。
インクジェットプリント、インクジェット出力とも呼ばれています。
ここではイベントや展示会に使用される
いわゆる「大型インクジェット出力」に焦点をあてていきます。
「インクジェットの基礎が知りたい」
「インクジェット印刷とほかの印刷との違いがわからない」
「インクジェット印刷で注意することは?」
広告業界、ディスプレイ関係で働きはじめた方たちの多くはこのような悩みを抱えています。
本記事ではインクジェット印刷の基礎知識をわかりやすく解説していきます。
インクジェット印刷とは
特徴
インクジェット印刷とは、微細な粒状のインクを印刷したいメディアに直接吹き付ける印刷方法のことです。
突然ですが「オンデマンド印刷」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
オンデマンドとは「必要な時に、必要な分、量だけ」といった意味に定義されていますが、インクジェット印刷も同じです。
PCで原稿を制作し、デジタルデータで入稿すれば「必要な時に、必要な分だけ」印刷することができます。
インクジェット印刷は、オンデマンド印刷のひとつなのです。
インクジェット印刷はデジタルなので刷版を作成する必要がなく、1枚からでも印刷ができるので小ロットでもコストを抑えることが可能です。
また色数の制限もないため、データを用意すれば写真やグラデーションの再現も自由にできます。(再現度はインクジェットプリンターによって異なります)
製作サイズはプリンターによって左右されますが、キャプションサイズの極めて小さなものから、最大で横幅5メートル、長さは数十メートルといった大型サイズの印刷も可能です。
当社ではこの大型サイズのインクジェット印刷を得意としています。
インクの種類
インクジェット印刷はCMYKを基本としたインクを使用しますが、その種別はさまざまで使用環境や期間、用途によって使い分けます。
◎水性インク
水性インクには染料と顔料があります。
一般家庭用のインクジェットプリンターで使用されているのが水性染料インクで、これよりも耐久性を持たせるためメディアにインク受理層を設けて進化させたのが顔料インクとなります。
業界で使用されるのは、後者の顔料インクとなり、主な用途としてはラミネート加工を施したポスターなどに使用されています。
顔料の粒子が微細なので細かい文字や色の再現性に優れていることから、製図・設計図などにも適しています。
◎溶剤インク
溶剤インクは大型インクジェット出力の代表的なインクのひとつで、屋外における長期使用の要求から、水性顔料インクをさらに進化させたインクとなります。
顔料を揮発性のある有機溶剤で溶かして生成しているので、インクがメディアに含侵して定着するため、耐光性・耐水性が高く、おもに屋外で使用される看板や広告サイン・横断幕・懸垂幕(垂れ幕)に使われています。
◎ラテックスインク
ラテックスインクは溶剤系インクの環境負荷(※)などの問題から、水性でありながらも耐久性を追求したインクです。
熱によってインクが持つ樹脂成分が溶けて硬化し、被膜を生成することで優れた耐久性・対擦過性を実現するとともに、速乾性があるため、溶剤系と比較して二次加工もスピーディーに行うことが可能です。
またメディア自体に特別な受理層がなくても印刷できるため、ファブリック生地や紙など、インクを定着し易くするためのコーティング処理をしていない低コストな素材への印刷も可能です。
無臭で有害物質を排出しないことから、病院や飲食といった健康配慮が必要な場所でも安心して利用できます。
◎UVインク
紫外線を照射することでインクが硬化するため、通常のロールメディアだけではなく、木材やアクリル板、金属、皮革などといった多彩な素材にプリントが可能です。
最近の技術では、メディアにインクを含侵させる溶剤と比較しても遜色ない程度の耐久性を持ち、かつ臭気も低く、速乾性にも優れることから業界のメインストリームになりつつあります。
白インクやバニッシュインク(透明クリアの意)を使って多層プリントが可能で、インクが盛り上がった立体的な表現も可能になっています。
◎昇華インク
主に布素材にプリントをする際に使用するインクで、転写方式とダイレクト方式があります。
このインクは、基本的にポリエステル系素材に反応する分散染料インクの一種で、前述のインク種と比較して明るい鮮やかな印象が特徴になります。
転写方式は、まずインクジェットで専用の転写紙にプリントし、これをポリエステル系布メディアに重ね合わせて約200度前後の高温で熱処理することでインクを昇華、メディアに転写させて定着させる仕組みです。
一方のダイレクト方式は、転写紙を使用せず、専用の加工を施したポリエステル系布メディアに直接プリントし、その後熱処理する方式になります。
転写紙にプリントする工程がひとつ省けているので、ダイレクト方式の方が手軽なイメージですが、微細な品質を問われる場合に転写紙を通して布メディアに再現するほうが文字や画像のエッジなどの精度が高いというのが一般的な認識です。
また、耐久性については前述の溶剤、UVなどのインクと比較するとどうしても劣ってしまう認識になります。
しかしながらのぼりなどのフラッグ系をはじめ、服飾やカーテンなどのインテリア分野を含めて、布というソフトで軽やかな素材へ表現できる昇華インクの文化は、ここ数年来「脱プラスチック」という世界的な潮流に合わせて再び注目されています。
インクジェット印刷と他の印刷
インクジェット印刷と混合しやすい「オフセット印刷」と「シルク印刷」についても確認してみましょう。
◎オフセット印刷
一般書籍から始まり、パンフレットやチラシなどの商業印刷、精細な写真を伴う写真集、美術誌など、もっとも身近な印刷物に使用されている印刷方式です。
現時点で、長大な歴史を持つ印刷技術の集大成がこのオフセット印刷となるわけですが、長くなるので、ここではオフセット技術の歴史・詳細に触れることは別の機会に譲るとして端的に説明します。
印刷する前工程で刷版を製作したうえで、この刷版についたインクをブランケットと呼ばれる樹脂製の転写ローラーにひとまず移し(オフするの意)、そのブランケットを介して印刷用紙に転写(セットするの意)することで表現する仕組みです。版と用紙が直接触れない印刷方式から、「オフセット」と呼称されたとしています。
このオフセット印刷技術は、「大量の部数を安定した品質で印刷する」ことに最適な印刷システムとなっていますが、現代のデジタル化の流れによって多様化する個々のニーズには対応しづらいシステムともいえます。
よくある印刷物や宣伝材料の例えで言うと、チラシやリーフレット、カタログといった類のものがあります。
これらを印刷会社などへ発注する場合、“最小ロット”という言葉をよく聞くと思います。 最低500枚とか、1000枚とかのアレです(※枚葉型のオフセット印刷機の場合はもっと少ない数量になる。またデジタルオンデマンド機のひとつであるトナーインクを使用するレーザー印刷の場合も同じ)。
この最小ロットがオフセット印刷で発注できるギリギリの境界線になるわけですが、裏を返すと「1枚だけ欲しい、しかも早く」といった要求には応えづらいということになります。
大量の要求をより正確に、綺麗に、納めることを追求するが故に、刷版を作成する製版工程を必要とすることや複雑な印刷構造から少部数の要求には費用がその単品個々に積みあがってしまうからです。
とはいえ、我々が仕事をするうえで業務上必要な印刷物や生活している中で目にしている印刷物の多くがこのオフセット印刷で作られたものであることも事実です。
つまり、それだけ世に要求される大量のニーズに優れて安定した品質で、効率的に生産できる、なによりの証しでもあります。
一方のインクジェット方式はといえば、この「1枚だけ欲しい、しかも早く...」が大の得意というわけです。なぜ?と問われれば、刷版を製作する工程はないし、印刷したいメディアにただ直接描画するだけだからです。
◎シルク印刷(シルクスクリーン印刷)
シルク印刷は版画の手法で、メッシュ状の穴のあいた製版にインクを擦り付けて生地の表面に転写させる印刷方法です。デザインの構成ごとに版の作成が必要となるため、単色で複雑ではないデザインに適しています。
また版代が高価なため、1種類のデザインを量産するのに向いています。
印刷対象も幅広く、紙、布、金属、樹脂に加え、ガラスや陶磁器等にも使用されます。
インクジェット印刷のデメリット
インクジェットのデメリットについてもしっかり把握しておきましょう。
インクジェット印刷は、同じものを大量に作ることはあまり得意とは言えません。
原稿のサイズ、プリンターのサイズにもよりますが(そもそも生地幅5メートルの印刷機はインクジェットしかない)、大雑把に例を挙げると、全く同じものを1000枚以上作るといったニーズには、インクジェットは最適とは言えません。
そもそも1000枚もの質量の品質を常に安定させることは、先のオフセットに代表される製版工程がある印刷機には適いません。
また、インクジェット印刷で最も多い悩みが色の再現です。 シルク印刷のように色をつくりこむことができないため、プリンターの能力でできる色しか表現することができません。
とくに通常のCMYKのインクジェット出力機では蛍光色やゴールド、シルバーといった特色はほぼ再現できません。(なかには蛍光インク、シルバーインクを搭載した特殊なインクジェット出力機もあります)
また昇華転写とは異なり布素材へ印刷した場合は水で洗うことができないことや、シルク印刷と比較するとインクの価格が高い・印刷時間が長くなる(色数によりますが)といった点もあります。
近年のインクジェット出力機は、かなり精度があがっています。
そのため、なんでも綺麗に印刷できると思われてしまいがちですが、やはり得意不得意はあるので注意しましょう。
まとめ
- インクジェット印刷とは微細な粒状のインクを印刷したいメディアに直接吹き付ける印刷方法のことで、版を作成する必要がないため、小ロットでも費用を抑えることが可能。
- インクは主に「溶剤インク」「水性インク」「ラテックスインク」「UVインク」が使われている。
- 混合されやすい印刷方法に「オフセット印刷」「シルク印刷」がある。
- 色の再現性が難しい場合や印刷時間に多少のデメリットがある。
関連記事
2024.08.06
【インタビュー】現代アートにおけるインクジェット印刷の可能性
2023.09.14
店頭販促とは?基本のアイテムや効果的な使い方を徹底解説!
2023.07.13
トロマット生地とは?特徴やおすすめの使い方を教えます!
関連記事
2024.08.06
【インタビュー】現代アートにおけるインクジェット印刷の可能性
2023.09.14
店頭販促とは?基本のアイテムや効果的な使い方を徹底解説!
2023.07.13