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【インタビュー】kinpactで実現した仏画表現とは?

掲出中の「涅槃図 -仏陀転生-(西野 萌黄さま)」

涅槃図ねはんず ─仏陀転生ぶっだてんせい

卒業制作展用 kinpactタペストリー|w4040×h1960|ノンカールターポリン|4分割つなぎ縫製|上下袋加工

今回は、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科卒業制作展にお邪魔して、kinpact®を用いて出展作品を制作された西野萌黄様に、制作過程における作品への思いと完成までのストーリーについて語っていただきました。どうぞお楽しみください!

アーティスト プロフィール

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西野 萌黄(にしの もえぎ)さま 1999年5月2日生まれ 神奈川県鎌倉市出身

多摩美術大学グラフィックデザイン学科研究室所属

【経歴】
2018/4
女子美術大学工芸学科ヴィジュアルデザイン専攻入学
2020/4
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科3年次編入
【おもな展示】
2015-
東京アナログvol.2、vol.6、vol.13、vol.19掲載
2019/2020
東京藝術大学日比野克彦DOORプロジェクトの藝大食堂と道後参加
2020/4
株式会社ニューコロンブスにて広告 映像担当
2021/5
『BAAAN展2021』友人と三人展
2022/1
羅雲地-卒制学外展

そもそも涅槃図ねはんずとは?

サインアーテック(以下、SA)
今回は、お招きいただきましてありがとうございました!
それでは、早速作品の解説をよろしくお願いいたします。
西野萌黄氏(以下、西野氏)
こんにちは。では、早速解説させていただきます。
こちらの作品は、お釈迦様が入滅するときに、お弟子さん、神様などの生仏(しょうぶつ)【※脚注1】が悲しみをもって集まっている様子を描いた仏画の事で、様々なお寺で、様々な絵師の方が、様々な手法で描かれている絵図です。
お寺ごとに伝えられ方も違っているのですが、これらのルーツとなるネパールの涅槃図では、それほど多くの生仏は描かれてはいなくて、大体5人くらいしか描かれていません。 中国から日本へと渡ってくる間に、その国の神様がだんだんと入り込んできて増えていきました。
SA
(作品を眺めながら)それにしても個性的な神様たちですね。これと似た構図の涅槃図を見た事があります。

英一蝶「涅槃図」 1713年(正徳3年)

英一蝶「涅槃図」
1713年(正徳3年)

ボストン美術館所蔵
西野氏
こちらが実際の涅槃図になります。ネパールから伝わる今も変わらない涅槃図の欠かせないルールとして2点あげられます。
ひとつは沙羅双樹(さらそうじゅ)【※脚注2】の花が咲いている事。
お釈迦様が生まれるときと亡くなるときに、季節外れなのに沙羅双樹の花が咲いていたという法話があります。涅槃図特有の4本づつ花が咲いている沙羅双樹と、枯れた沙羅双樹を交互に配置して表現しています。
もうひとつは摩耶夫人(まーやふじん)【※脚注3】が描かれている事。 中央上に描いているバイクに乗った女性です。このサイドカーのバイクはハリーポッターに出てくるバイクと同じ車種(ロイヤルエンフィールド【※脚注4】 Bulletシリーズ)を改造したものなんです!
SA
えーーっ!!!(驚)

仏陀のもとに駆け付ける摩耶(まーや)婦人と沙羅双樹(さらそうじゅ)の木に絡まった薬

仏陀のもとに駆け付ける摩耶婦人(まーやふじん)と沙羅双樹(さらそうじゅ)の木に絡まった薬

SA
あ!これですかーなるほどー
西野氏
この薬はこちらの「カードゲーム」【※脚注5】で表現していて、沙羅双樹と一緒に描いています。

西野氏考案のカードゲーム

西野氏考案のカードゲーム

SA
発想がすばらしいですね!史実というか伝説を基にしてイメージを膨らませていった作品ということなんですね。元の涅槃図の概念を知らずにこのものがたりを読み取るのは、とても時間がかかりそうです。
西野氏
「かわいい」絵だけを描いて終わらずに、何年経っても新しい発見ができるような絵を描いていきたいとずっと考えているんです。
SA
このカードゲームを用いることによって、時間が経過してもものがたりの説明をできる状態にしているわけですね。
西野氏
知識が増えていくと、知らなかった事でも知るようになるんじゃないかなと思っています。 例えばここの黄色いカードは、描いている神様自体には名前がないですが、仏教用語を由来とした名前を付けています。時代が変化していく中で、そんなふうに見方や感じ方がだんだん変わっていくのではと思っています。
脚注
脚注1
仏教用語。衆生(しゅじょう)と仏陀。人間と仏。迷える者と悟れる者の意。
脚注2
インド北部原産のフタバガキ科の植物。釈迦入滅の時に四隅に対になって生えていたとされている。
脚注3
ゴータマ・シッダッタ(ブッダの出家前の本名)の生母。ブッダ出産の7日後に没したとされている。
脚注4
イギリス発祥で現存する最古のオートバイブランド。現在はインドのアイシャー・モーターズ社のブランド。
脚注5
西野氏が考案された涅槃絵解きバトルゲーム。キャストそれぞれのブッダとの関わりや徳性を「技」と「数値」として設定し、バトルゲームとして戦いながら涅槃について自然に知ることができる、ユニークなゲームとなっている。

仏教をテーマにしようと決めていた理由ワケ

SA
ところで、いつごろから仏教に興味をお持ちだったのでしょうか?
西野氏
元々、仏教に関わっている家族や親族が多く、 従兄弟の実家がお寺だったりとか、祖父が仏画の絵師だったり母が鎌倉のお寺で働いていたりとか、子供のころからなんとなく好きではありました。色味とかもアバンギャルドだったりとか、ジャボニスム【※脚注6】的なくすんだ色合いが好きで。
ただ、今回この涅槃図をくすんだ色味で描いていないというのは、もともとの涅槃図自体がくすんだ色合いのものというのもあって、そのまま描くというよりも、あえて彩度を上げてバチバチにしたものにしたいなと。涅槃図が最初に描かれたときも、もしかしたら鮮やかな色味だったかもしれませんし。
当時は鮮やかな絵の具がなかったのかもしれませんが、経年劣化で段々削れていったり、修復を重ねていくうちにできてくる色が結構好きだったというか。
SA
いつごろから涅槃図を卒業制作のテーマにしようとお考えだったのでしょう?
西野氏
涅槃図をやろうと決めたのは、 大学1年生くらいのときです。北鎌倉のお寺にて涅槃図の絵解きがあったので拝聴しに伺いました。紙芝居形式で説明しているのですが、それが結構面白くて。
実際に制作に取りかかったのは大学4年の中旬くらいで、大体半年で仕上げました。就職活動などもあって、スケジュール管理がちょっと。。(笑)

タペストリー下部拡大

タペストリーがゆらめくたびに、kinpact®印刷の反射が多彩な表情を見せる

SA
構想に時間をかけたってことですね。
西野氏
そうなんです。時間をかけたかったのがそこだったので。半年の制作時間のうち1日あたり3人ずつ描いていき、最初の登場人物をある程度描いてから、色味を決めたいなと思っていました。描いた登場人物を重ねていく手法で仕上げていきました。
例えばこのキャラは最初のころ描いたキャラで、まだくすんだ色味を残したい気持ちが表れています。一番最後に書いたのは、実は真ん中にいるお釈迦様なんです。それこそ、「ここで金を使うか使わないか」すごく迷って。
SA
そうなんですね!お釈迦さまはなんとなく金のイメージなので意外です。描いている間にも変化していくのがとても面白いです。
西野氏
結構作品の周囲に金を使用しているので、ここで金を使うとバッティングしてしまうかと思って。描いていて一番難しかったところです。グラデーションなども、タブレットを使用していますが、ムラっぽさを出すために指で描いているんです。スプレーなどを使用すると、また違う感じになるのかなあって。次回は挑戦してみたいなと思います。
脚注
脚注6
19世紀後半にヨーロッパで流行した日本趣味の現象・ムーブメント。特に浮世絵はボスト印象派のゴッホを筆頭に、当時の芸術家たちに絶大な影響を与えた。

制作手段としてのkinpact®

SA
最初にこ相談いただいたとき、kinpact本来の出力幅(kinpactの最大サイズは、1000mm×2400mm)では足りないために、分割縫製仕上げとするしかない【脚注7】とお伝えしました。
当初は縫製仕上げですと糸目が目立ってしまい、作品の仕上がりに影響が出るのではと懸念していました。それでも、最初の2、3日でkinpact+カラーで出力されるとのこ決断をいただけました。
西野氏
白い糸で縫製していただいた上で、自分で着色して絵に馴染ませました。
SA
それは良かったです!金箔仕上げを考えた際に、ネット検索して探されたのでしょうか?
西野氏
最初は大手印刷会社の方に「どうしよう、どうしよう」と相談していて、箔押しとなると型を作らなくちゃいけなくて。私がやりたい図版となると型がかなり増えてしまうし、かなり細かく大変な作業になってしまうので(笑)ネット検索もしましたが、先生に「ここの会社はどう?金プリントできるらしいよ」と教えていただいたんです。
SA
そうだったんですね!本当に嬉しく思います。どうか先生にお礼をお伝えください(笑)
アーティストさんアイコン
【kinpact®の採用ポイント】

箔押しや金箔による金の表現方法が見当たらず、大きく印刷をするとなると価格がかなり上がってしまったため断念しました。またサインアーテックさんの金プリントは、光が当たっていない時でもカーキーや黄色になるのではなく、しっかり金として発色していたため依頼させて頂きました。

工場内で出荷を待つ作品

工場内で出荷を待つ作品

つなぎ目は白糸仕上げ(のちに西野氏ご自身で着色)

つなぎ目は白糸仕上げ(のちに西野氏ご自身で着色)

SA
本来の箔はこのくらい(3寸6部角≒109mm角)の箔を1枚1枚手で丁寧に貼っていく作業ですが、トナーなどの均質なゴールド感とはまた別の、そういった手作り的な風合いを大切にできればと考えています。
kinpactは、「①デジタルデータを活用できて②他の箔加工にはあまり見られない大きいサイズを③アナログな風合いで」といったコンセプトで開発させていただきました。
工場内でも(作品が)上がってきたのを見て、みんな「コレは!!」という感じで驚きでもって見守っていました。今回の案件は初めての事が多かったのですが、作品にもマッチしているようで本当に良かったです。
西野氏
金箔がちょっと粗目なのがイイ感じです。全体の仕上がりもキレイに。本当にありがとうこざいました。

タペストリー左下隅の様子

多彩なキャラの神様がにぎやかに集う

タペストリー右下隅の様子

随所に細かく散りばめられているkinpact

脚注
脚注7
通常であれば、ノンカールターポリンをつなぐ場合はウェルダー圧着でつなぎとなるが、今回はkinpact印刷を施しているためウェルダー圧着はNG。

西野萌黄氏のこれから

SA
この卒展の後、この作品はどうされるのですか?
西野氏
この後、もう一度学内展でも展示をして、その後はいとこの家が広い(お寺さん)ので、そこに預けようかと(笑)
SA
是非、お参りしたいです!(笑)古い時代に生まれた涅槃図が、現代版涅槃図となり、今でも現存する建物内に展示されるということにとても魅力を感じます。
西野氏
定期的にまた展示してみたいとも思っています。今回の卒業制作展も、「コレを見に来た!」と言っていただいた方もいて。思い描いていたそのままが印刷されて届いたので感動しました。ありがとうこざいました。
【編集後記】

今回は、クライアント様とのインタビュー形式によるブログ投稿という初めての試みとなりました。いかがでしたでしょうか?

作品を前にクライアント様に直接インタビューをすることで、ものづくりに対するリアルを体感することができ、とても有意義な体験をさせていただきました。

当インタビュー後も、西野氏による作品についての解説は続きました。ご卒業後は同大学のグラフィックデザイン学科研究室に入られ、アートに没頭されるとの事でした。
これからのさらなるご活躍をお祈りしております!

現在、本作品はご自宅のアトリエにて保管されており、 ご親戚のお寺にはまだ保管されてはいないそうですが、来年の夏頃に再度展示する予定とのことで、お参りに伺えることを今から楽しみにしています。ありがとうございました!

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Interview & Text

K.Maruyama

東京造形大学 デザイン学科卒。印刷関連会社、IT関連会社などを経て、2017年(株)サインアーテック入社。

サインアーテックでは、印刷・施工などご注文いただいたお客さまを対象に、当ブログに掲載可能な制作事例案件を募集しております。詳しくはこちらのフォームよりお問い合わせください。

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