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【インタビュー】現代アートにおけるインクジェット印刷の可能性

掲出中の「(鎌谷 徹太郎さま)」

The Dream of a Butterfly

作品基材UVダイレクト印刷|w420×h420|支給レジン樹脂パネル

今回は、2004年から現代美術家として、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、香港、台湾など世界各地で多くの作品を発表、各地の国際アートフェアや個展で注目を集めていらっしゃる気鋭の現代美術家、鎌谷徹太郎さまのインタビューをお届けいたします。

グループ展「超複製技術時代の芸術 NFTはアートの何を変えるのか?」に作品を出品された鎌谷徹太郎さまを訪ね、現地・表参道のギャラリー「GYRE Gallery」にて、「そもそも現代アートとは何か?」という問いについて、縦横無尽に語り尽くしていただきました。

アーティスト プロフィール

クライアント様アイコン

Instagramアイコン

鎌谷 徹太郎(かまたに てつたろう)さま 1979年4月13日生まれ 大阪府出身

慶應義塾大学文学部在学中、現代美術家として活動開始

【おもな展覧会】
2016
Human Paradise-Portrait|Gallery Cellar (東京)
2014
Field of Now|銀座洋協ホール(東京)
2011
Human Paradise TOKOYO|Art Stage Singapore(シンガポール)
Paradise Head|Sosin Contemporary Art Gallery(上海)
Proliferation-Flower, Part 2|Gallery Cellar(東京)
2010
Proliferation-Flower , Part 1|Gallery Cellar(東京)
2009
Ultra Superficial|Gallery J☆Chen(台北)
PICASSO VS BACON|Gallery Cellar(東京)
2008
The Kingdom of Images|Gallery Cellar(名古屋)
Human Paradise|Gallery Cellar(名古屋)
TETSU|Gallery Cellar(名古屋)
MASKED PORTRAIT(グループ展)|Marianne Boesky Gallery(ニューヨーク)
Wonderland-Japanese contemporary art exhibition(グループ展)|Opera Gallery (香港)

リアルとデータ、あなたはどちらを信じますか?

サインアーテック(以下、SA)

本日はよろしくお願いいたします!

鎌谷徹太郎氏(以下、鎌谷氏)
よろしくお願いします。では僕の作品の紹介の前に、こちらのアーティストさんの作品をご紹介していきます。
ダミアン・ハースト【※脚注1】が、「ドット状の絵画」と「デジタル化したNFT(Non-Fungible Token|非代替性トークン)【※脚注2】を計1万枚発行して、1点あたり2000ドルで抽選販売したのですが、あらかじめ1年後にデジタルデータであるNFTのまま所有するか、または現実の絵画と交換するか購入者自身が選択する事を前提条件としました。
この条件の何が面白いのかというと、このリアル(絵画)とデータ(NFT)のうち、交換されなかった方は焼却されるところです。
SA
!!!!!!!
鎌谷氏
こちらのリアルとこちらのデータ、サインアーテックさんだったらどちらを選びますか?
SA
うーん、価値をどちらに置くかということでしょうか??燃やされるのを承知で選ぶのは怖すぎますね。
鎌谷氏
期限の1年後、最終的に1万人のうちリアルを選んだのが約5200人、データを選んだ人が約4800人とかなり拮抗する結果となりました。選ばれなかったリアル4800点はその場で焼却処分されました。販売当初の価格で2000ドル×4800≒960万ドルが燃えてしまったと。おまけに1年後の時価は販売当初の2000ドルから2万ドルに高騰していました。
これってどういうことかというと、今だったら仮想通貨でしょうけど、わかりやすいようにもっと身近なもので、SUICAとか電子マネーで考えてみましょう。 ピッとやると残高として表示される数字、これに信用があるからモノを購入できたりするわけじゃないですか?以前は紙幣などの物理的なものがメインでした。データそのものに価値があるわけではないですよね?今となっては当たり前のことですけど。
実は、我々はすでに物理的にお金じゃないものも信じ始めていると言えます。 つまりこれは、「あなたはどちらを信じますか?」という問いであると。
SA
そう言われてみると、だんだんリアルとデータの境界が揺らいできました(笑)
鎌谷氏
「こんなドット絵なんて誰でも描けるよね、数百万ドルなんて詐欺みたいなものなんじゃないの?」なんて実際そう感じるお客様もいらっしゃって。まあそう感じるのも頷けます。

揺らぐリアルとデータの境界

急激に揺らぎ始めたリアルとデータの境界

鎌谷氏
それでは、先ほど紹介した作家ハーストのNFT作品である貨幣シリーズ「The Currency」【※脚注3】での問いについて考えてみましょう。彼が問いかけているのは、例えば1万円札だろうとなんであろうと、紙幣自体は銀行で印刷されたものにすぎず、「本物であることを証明しますよ」とホログラムをつけて、それを我々が信用して使っているに過ぎないんじゃないか?という問いです。
脚注
脚注1
ダミアン・ハースト(Damien Hirst)イギリスを代表する現代美術家。「ナチュラル・ヒストリー」シリーズ、「スポット・ペインティング」などで知られる。死と命、美と醜さ、生と死、愛と恐怖、芸術と商業などの対照的なモチーフが特徴的。
Damien Hirst (@damienhirst) - Artist
脚注2
NFT(Non-Fungible Token|非代替性トークン)ブロックチェーン(※後述の脚注4参照)上の独特なデジタル識別子で、複製や細分化がほぼ不可能なことから所有権の転送が可能。デジタルの音楽や絵画をコピー、NFTと結びつけることによりその真正性や所有を証明することが可能。2024年7月現在、NFT市場はバブル崩壊後回復の兆しを見せてはいないが、企業による実用的な利用が進んでいる。
脚注3
「The Currency」合計10,000点の手描き作品を全てNFT化して販売。1年間所有後にデジタルを選択した(交換しなかった)所有者は、手描き作品を焼却処分するというダミアン・ハーストのアート・プロジェクト。芸術、所有権、物理的・デジタルな価値についての新たな問いを提起した。

なぜ、「The Dream of Butterfly」は対になっているのか?

我々は一体何を信じているのか?

SA
なるほど。確かにそう言われてみると、紙幣とは単なる紙に印刷されたものに過ぎませんね。
鎌谷氏
この紙幣の話と、絵画とNFTアートとの関係性について考えた時に、「モノではなく概念に意味があるのであって、両者には大した違いはないのではないか?」というのが彼の問いなのです。概念自体に価値があるだけで、モノ自体には何も価値がないということが段々と明らかになってきているので、現代のように電子マネーが流通するようになっていると。
こんなふうに歴史を通して見ていくと、そういった面白くも強い問いがあるわけなんです。 この問いをキッカケに自分の思考も加速していくし、このようにディスカッションすることで深まっていきます。ただ「キレイですね」だけではなく、そこから一歩も二歩も踏み込んでいける。 これが本当の意味での芸術なんだと考えています。
人間にとって「モノを見る」という行為は、1万年前から基本的には変わっていなくて、では何が変わったのかというと、人間の価値観や社会状況が変わっているということなんです。

対になっている作品写真

隣り合って展示された、リアル作品(左)とNFT作品(右)

SA
それでは鎌谷先生の作品について解説お願いいたします。
鎌谷氏
例えば、サインアーテックさんがこの作品(※写真右側のNFT作品)を購入したとすると、ブロックチェーン【※脚注4】上で、所有者がサインアーテックさんに変わったことをアルゴリズムで捉えて、今ある作品の背景が変わり、別の花が永遠に咲いては散っていき、元の所有者は永遠に所有できなくなるということが起きます。
方やこちらの作品(※写真左側のリアル作品)は図像そのものは変わることがありませんが…、もう少し近くで見てこの透明のパネルの奥を見てみてください。

透明の樹脂で固められた5万匹のハエ

ひしめき合う透明の樹脂で固められた5万匹のハエ

SA
んん? あー、います。いますね!ジッと見ているとだんだん鮮明に見えてきました!
鎌谷氏
このレジン(透明の樹脂)がツルツルになって固まった表面へ、サインアーテックさんに作品の下地をUVダイレクト印刷(完成品はさらに上から鎌谷氏自らが加筆)していただきました。
SA
驚きました(唖然)。この下地全部がハエだったんですね。
鎌谷氏
印刷担当のオペレーターの方に、「ちょっといいですか?実はこれ、ハエが入っているんですよ。」って教えてあげたら、「えっ?ヒ、ヒエーーーッ!!」と(笑)

作品に本物のハエを入れ込んだ意図とは?

エドワールト・コリール「書物と髑髏のある静物」1663年

エドワールト・コリール「書物と髑髏のある静物」
1663年

国立西洋美術館所蔵
鎌谷氏
樹脂の中にハエを入れ込んでいる時点で有機物が入っていますよね。通常の絵画というのは、200年、300年保つようにジェッソ【※脚注5】を下地として塗って、その上に油絵具などで描いていくというのが基本です。 ところが、この作品は中にハエという有機物を入れ込んでいるために腐敗して崩れていって、10年後くらいにはヒビが入ってくるわけなんです。図像としては変わらないのですが、物理的に朽ちていく要素を最初から入れ込んでおいたというわけです。
NFTの方は「モノ」としては所有できないけれど、データが朽ちることはなくNFTも付いているので、所有権は永遠に生き続けます。 片やリアルの方は、時間経過とともに朽ち果てていきます。
西洋、おもにオランダなどで描かれたヴァニタス【※脚注6】という、キレイな花などやがては朽ち果てていくものをモチーフとして描かれている作品群があります。 日本人でもこの朽ち果てていく様というのが「わび・さび」と勘違いされている方が多くて。例えば「壁が崩れていて、そこに萌えを感じる(笑)」みたいに朽ちている様子がキレイという感覚だと。
わび・さびという精神性が出てきた時代背景としては、当時は生きていくだけで過酷な状況がありました。この作品の四方に配置している平等院鳳凰堂【※脚注7】が建立された当時は、今のコロナ禍と似ていますが、疫病が蔓延し大切な家族が大勢死んでいった時代です。ところで平等院って行ったことありますか?
SA
いえ、ないです。

平等院鳳凰堂と阿字池 1052年(永承7年)京都府宇治市

平等院鳳凰堂と阿字池
1052年(永承7年)

京都府宇治市
鎌谷氏
阿字池(あじいけ)という池があって、正面から見ると鳳凰堂がその池に映り込んでいるんです。 あれってどういった装置かというと、(逆さに)映り込んでいる方が極楽で、それが現実に現れているのが実際に建っている鳳凰堂なんです。 要は、あの場所は「あの世」と「この世」の狭間として、死後はこういった素晴らしい建物があって仏様が住んでいるんだよといった、ある種の祈りが入っています。
わび・さびというのは何かというと、そうやって朽ち果てていく中でも美しいものはあるし、仮に疫病で家族または自分も明日死ぬかもしれないとしても、その中でも「よろこび」をあの世(極楽)ではなく「この世(現実)」で捉えていこう。この世は地獄みたいだけど、ちょっとした「よろこび」や「美しいもの」は今生きているこの世にもあるんだよって様のことなんです。
つまり、このハエが朽ち果ててしまってもそこに意味さえ見つけることができれば、これは意味になり得ると。この作品(リアル)はどちらかというと時間の経過とともに朽ちていくという意味で身体性のある「人間」として描いています。 もう一方(NFT)は何かを所有したり、概念だったり、今日こうやってお話をする中で「あ、そういう捉え方があるんだな」と(視点が)変わっていったり、年齢とか関係なく、ずーっと変わり続けていきます、良い悪い関係なく。
逆に言うと「(リアルな)オリジナル作品を所有した方が良い」という事は実は関係なくて、「何かを所有して変わり続けるということ自体が素晴らしい」という事なんです。
SA
なるほどです。
鎌谷氏
そのまま朽ち果てて、身体も肉体もなくなって死んだとしても、あなたが持っている思想というものが、例えば会社の同僚だったり、奥さんだったり、恋人だったり、子どもだったり、そうやってどんどん受け継がれていくというのが精神性で。 僕の場合の作品に残していく精神性も、別の人から次の世代の人に受け継がれていく。 そういった意味で、この作品は対になっています。
脚注
脚注4
ブロックチェーン(Blockchain)取引の記録をブロックと呼ばれるデータ構造に保存し、それらを連鎖的に結びつけることで取引の完全性を保証する分散型データベース技術。データの改ざんが極めて困難なことから、ビットコインなどの暗号通貨をはじめ様々なアプリケーションで利用されている。
脚注5
ジェッソ(イタリア語:gesso)イタリア語で「石膏」の意。絵画の下地作りに用いられる白い塗料。キャンバスに塗布することで色の鮮やかさを増し、絵具の浸透を防ぎ、絵画の長寿命化に寄与する効果がある。
脚注6
ヴァニタス(ラテン語:vanitas)17世紀のオランダを中心に流行した絵画のジャンルで、おもに生のはかなさや死を表現していることが多い。スカル(頭蓋骨)、腐った果物、枯れた花など、「一過性」や「死」を象徴するモチーフが多く用いられている。
脚注7
平等院鳳凰堂(京都府宇治市)平安時代に建立された寺院。国宝。1994年(平成6年)に世界遺産「古都京都の文化財」の構成物件の一つとして登録。後述の阿字池(あじいけ)の中島に東を正面として建つ姿は、10円硬貨の裏面に描かれていることで有名。

「技術革新」と「新しい表現」の関係性

芸術自体、一体何の意味があるんだ?

鎌谷氏
この「The Dream of a Butterfly」リアルの方の作品も、所有された方は1年に1回写真を撮って僕に送っていただければ、逆にその朽ち果てていく姿をNFT作品として発行します。
SA
それは面白いですね!身体性はあるけどそれがNFT化されるという。
鎌谷氏
1年ごとの朽ち果てていく姿を、わび・さびの意味で言えば「それを受け入れて」という意味が一つ。 もう一つは、NFTアートや現代アートと言われるものが投機対象になっていることに対して(芸術としての)純粋性がどうしたこうしたという人もいるんですけど、むしろこんなに作品が(短期間で)高額になっていくという時代背景は歴史上初めての現象なので、そこを視野に入れてしっかりと作品に込めないと、ハッキリとした今の時代の輪郭は捉えられないんじゃないかな?という意味です。
SA
むしろ、百数十億と急激に高騰したからこそ、その特異性を発見できたわけですよね。ちょっとしか上がらなかったとしたら、そこまでの問いにはならなかったかもしれません。
鎌谷氏
そうですね。お金が発明として成功しているのは、みんなが1万円札は1万円、100ドル札は100ドルの価値があるという共通認識ができているからであって。100億なら100億の価値があるんだなということを考えるキッカケにはなるんじゃないかと。絵なんて主観的なものであって「好き・嫌い」だけなんです、正直。でもそれじゃ何も起こらない。有名な評論家に依頼して評論してもらい、絵の価値を高めて、みんなに美術館で見てもらって。そうすると「じゃあ、人は美術館へ何を見に行ってるのか?」と次々に問いが生まれてくると。
僕自身も「芸術自体何の意味があるんだ?」というところまで意識してやっています。 現代アートといっても「現代」自体全てわかっているわけではないので、というよりわかりようがないので。 一方で、僕としては「ポスト・ニューヨーク」【※脚注8】としての活動をメインとしていて、あっちでやっていることは「日本のお土産」を作って売るみたいな感覚で活動しています。
SA
日本のお土産ですか?? 今までのお話から、日本の歴史観とか宗教観みたいなフィルターを通したものって感じでしょうか?
鎌谷氏
そうそう。感覚としてはお土産なんです(笑) 50年後の人が「これはアートだ!」と言ってくれれば、その時初めてその作品は2023年の現代アートになるという事なんです。ダミアン・ハーストみたいなすごい人でない限りは自分がやっていることが一体作品なのかどうか?というのもあるし、ハーストの作品でも別に「作品」としては特にすごくはないのもあったりして。でもハーストがやってるという事において意味があるという。背景にある「ものがたり」が重要なんですよ。
SA
なるほど。面白いですね! まだ鎌谷先生について存じ上げていない時代から脈々とお仕事を発注していただいていて、キャンバス地にドクロがあったり、(鮮やかに花で彩られた)キューピーだったりガンダムだったり。その「印刷されたもの」がどのように手を加えられ作品の一部となっているのか、今の(NFTなどの)新しいテクノロジーの時代の作品の価値について考えさせられました。 当初は、「インクジェット印刷されたものが、果たしてアート作品として成立しうるのか?」といった切り口でインタビューの構成を考えていました。 でも、鎌谷さんの解説が始まってしばらくして、その切り口には意味がないということがよくわかりました(笑)

JFX500を見つめる鎌谷氏

フラットベッドプリンターMIMAKI JFX500(最大50mm厚までの印刷に対応可能)を見つめる鎌谷氏

鎌谷氏
印刷する事によって「ああ、もうゼロから描かなくて良いんだな」と。初期の頃は写実的に描いていた時期もあったんですけど。
僕は日本人が「りんご」を写実的に描く必要ってないと思っていて、例えば40歳の大人が「どうですかね?りんご上手く描けてますかね?」それを見て「上手ですね、すごいですね。上手く描けてますね」というやりとりと、3歳の子どもが「ママ、上手に描けたでしょ」「あー、上手ね〜」というやりとりは、やってることは本質的には同じだと思うんですよ。 「それが表現なのか?」というと全然表現でも何でもなくて。
日本人がゼロから写実的に描くということには、宗教的な意味合いがありません。西洋だとある種の神への信仰心からゼロから描くということには意味があったりするんですが。 「ここは1700年代の技法を使って描き上げたんですよ。」なんて言われても、「そうなんですね。すごいですね。」としか言いようがなく(笑)自分の制作しているテーマやジャンルとは違うので、それはそれで「キレイだな」とか感じることはありますけどね。 そこが現代アートとの違いなのかな。つまり、オリジナルなんてものは初めから無いんだと。ある種の価値観の上に自分の価値観をのせていってるだけで。
アーティストさんアイコン
【UVダイレクト印刷との出会い】

2005〜6年くらいに「インクジェット印刷した上からそのまま描く」ことで「オリジナルと何が違うのか?」といった実験をお願いしたのが、サインアーテックさんとの関係の始まりでした。

鎌谷氏
当時は印刷可能なキャンバス生地がインクジェット用のロールしかなかったけど、だんだん5センチ厚のフラットなパネルまで大丈夫【※脚注9】となってきて、ある種の技術革新があったからこの作品が存在するとも言えます。今では、当時なかった5m幅のメチャクチャ大きいキャンバスもあって、その大きさでもいずれ制作したいなと考えています。
技術が発展していった結果として、新しい表現が可能になりました。逆に言えば、「新しい表現」は「技術の発展」なしには起こり得なかったとも言えます。ある意味この2つの要素も対になっていますね。
脚注
脚注8
「ポスト・ニューヨーク・アート」ジャン=ミシェル・バスキアなどに代表される、ニューヨークを拠点としたアーティストが1980年代以降に展開したムーブメントの総称。コンセプチュアルなアプローチ、インスタレーション、パフォーマンス、コラボレーションなど、異なる芸術形式やメディアの融合、異なる文化やアイデンティティからの影響を受け入れるといった、多様性のあるアプローチが特徴。
脚注9
「MIMAKI JFX500の印刷可能最大高」厚み50mm以上の印刷対象物は印刷不可。また、印刷面がレーザー光を反射してしまう鏡面仕上げのものや、極端な凹凸のあるもの、油分の多い何らかのコーティングがしてあるものなど印刷できかねる素材もあるため、▶︎担当営業まであらかじめご相談ください。

作業と表現

現代アートで成功するための条件

鎌谷氏
サインアーテックさんの取り組みが、この記事を読んだ作家さんに広がっていけば良いと思うし、このことを聞いた新しい作家さんが、僕とはまた違った切り口で新しい作品を生み出していったり。それを見て「くそッ、やられた!」(笑)とか僕を悔しがらせてくれれば、こっちもまた新しいイメージが湧いてくるのかなと。
SA
そこで作家さん同士でお互いに共鳴していただけたら、とても嬉しいですね! 今までも作家さん同士の横の繋がりからお仕事をご紹介いただいた流れはあったのですが、webを通した流れはサインアーテックとしても新しいことなので、今回このような機会をいただけたことを感謝しております。「サインアーテックに依頼すれば、一緒に何か面白いことができるかも!」といったことが伝わればとても嬉しいですね。
今回は弊社の事業である「印刷」という概念と、「モノとしての価値」について改めて考えてみる良いキッカケとなりました。ありがとうございました。
鎌谷氏
僕の作品は、ほぼ芸大生などのアシスタントの皆さんに作ってもらっています。「これだけ作業時間をかけたのだから」と考えてしまう作家さんも多いとは思いますが、このような「時間=労働の対価」という考え方では「作業」になってしまうんですよ。作業すると「表現」でなくなりますし。普段は自分では極力描かないというか、描かなくても良い状況を作っています。 今回は時間がないのもあって久しぶりに筆を取って手が震えましたが(笑)。
僕が22歳くらいの頃でしたか、ギャラリーの人に聞いた「現代アートで成功するための3つの条件」というのがあって、
  1. 一目で「カマタニ」の作品だということがわかること
  2. 最低月に10点の作品を制作すること
  3. 早死にすること
の3つでした。マーケットは「世界」なので、最低月10点作れないとお話にもならないと。
3番目の条件はともかく、1番目、2番目の条件を満たすためには、アシスタントに描いてもらう必要があります。 先ほどご紹介したハーストやジェフ・クーンズ【※脚注10】なども、アシスタントを雇って大きい工場のようなところで、常に何十点も同時進行で制作しています。僕のスタジオではまだ同時並行で8点くらいしか制作できていないので、そこをもっと増やしていかないとなと考えています。
よく「これだけ作るのは大変でしたよね」なんてことを聞かれることがありますが、「いや全然。優秀なアシスタントさんのおかげです」と。人によっては「じゃあ、これって徹ちゃん(鎌谷氏)の作品って言えるの?」なんて返してくるのですが。
SA
またさっきのお話に戻ってきたような気が…
鎌谷氏
そうなんです。「描く」という行為をしていないとそれは作品と言えないのか? それじゃあ作品の価値とはどこにあるのか?作家性とは何か?という事になってくるわけで。 結局、概念でしかないということなんです。

工場内で談笑する鎌谷さん

工場内で談笑する鎌谷さん

鎌谷氏
わかりやすい例えだと、お金だって発行者(1万円札の場合は日本銀行)が直接印刷作業しているわけではないし、トヨタの社長が実際に車を組み立てているというわけでもないし。 マンガ家にしてもストーリーは描くけど、他は分業でアシスタントさんに描いてもらって〆切に間に合わせているわけだし。 「じゃあ、あのマンガはあの作家さんの作品ではないのか?」というとそんなことはないですよね?
例えば17世紀のレンブラント工房【※脚注11】などでも、たくさんのお弟子さんたちが一緒になって工房で作品を制作したりと、歴史を紐解いてみても普通に行われてきたことなんですよ。
SA
写真が発明された当時も、それまで写実的な絵を描いてきた作家はいきなりピンチに立たされるわけですが、そうするとカメラでは不可能な表現の仕方をする印象派の画家が台頭してきたり。 昨年からChatGPT【※脚注12】などの生成AIが短期間で拡大していって、作家さんの仕事を脅かすのでは?などと心配する声から、もはやそれが当たり前の未来になりつつあります。
鎌谷氏
そうそう。「ヤバい。仕事がなくなっちゃう」とね。ChatGPTでは、誰しもが適したワードさえ入れちゃえば学術論文だって書けちゃうし。あれってつくづく「質量ゼロのドラえもん」だなって思います。今後はある種限られた人たちかもしれませんが、より概念的なものをChatGPTに投げる>ドラえもんから返ってくる>それに対して思考を高めて加速させてまた投げる>またドラえもんが返してくれる、という風にAIと一緒になって作っていく時代になるのかなと思います。
脚注
脚注10
ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)アメリカの現代美術家。ポップアートやキッチュな要素を用いた作品で知られる。風船で作られた犬のような形をステンレス鋼で巨大に再現した作品「Balloon Dog」は、2013年のオークションにおいて当時最高額を記録。
脚注11
「レンブラント工房」代表作「夜警」で知られるレンブラント・ファン・レイン(Rembrandt van Rijn|オランダ 1606年生)がキャリアの初期に開いていた工房では、美術品マーケットの拡大に伴い、現代アートさながらの作品の大量生産が行われ始めた。
脚注12
「ChatGPT」OpenAI社が開発したGPT-4アーキテクチャに基づく大規模言語モデル(LLM)。2024年5月最新のAIモデル「GPT-4o」を発表。このモデルは「omni」の略称であり、言語、画像、音声、動画を1つのシステムで処理する事が可能。

現代アートとは何か?

コン × テキスト × 問い =

鎌谷さん近影

鎌谷氏
一般の人が制作したNFTアートに値がつかないで、それよりも適当に制作した(ように見える)アートに何百億の価値がついたり。「一体何に価値がついてるんだ?」といった時に何が一番大切になってくるかというと、NFTアートのようなより概念的なもの、つまりコンテキスト(背景)に価値がついているんです。
「コン」は古代ギリシア語で「共有」の意味があって、「テクスト」は「テキスタイル(織物)」の意味があリます。縦糸(美術史)と横糸(作家)で織りなされた生地が作品であって、それがより多くの人と共有された時に初めて芸術作品となります。ここでいう「共有される内容」とは「問い」のことです。 これが現代アートのロジックになります。
このロジックで言うと、良いテキスタイルを作るだけでは不十分で、共有されるためにどういったパッケージにするのか?どこに作品を出品するのか?はかなり考える必要があります。それに加え人々とのつながりも大事です。
デザインとアートの違いは何かというと、デザインは出された直後に「消費されるもの」です。それに対してアートは「問いを共有する」ことなんです。多様性が進んでいく現代で、よりシンプルな問いとして「時間とは何か?」「所有とは何か?」という大きな柱を中心に出していくのがわかりやすいかなと考えています。
【編集後記】

活動の合間を縫って世界各国のギャラリーを精力的に回ったりと、その情熱は益々衰えるところを知らないといったご様子の現代美術家・鎌谷徹太郎氏。

今回、実際に印刷現場視察のため飯能工場にいらっしゃった際の作品は、昨年ロンドンで開催された「チェルシーフラワーショウ」にて見事ゴールドメダルを受賞されました!

サインアーテックがこの大舞台でのゴールドメダル受賞に、ほんの僅かではありますが貢献できたかもしれないというこの上なく嬉しい結果に、改めて感謝を込めて御礼申し上げます。 本当におめでとうございました!

新進気鋭の現代アート作家、鎌谷徹太郎 伝統あるチェルシーフラワーショーで「禅」の精神を展示

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Interview & Text

K.Maruyama

東京造形大学 デザイン学科卒。印刷関連会社、IT関連会社などを経て、2017年(株)サインアーテック入社。

サインアーテックでは、ご注文いただいたお客さまを対象に、当ブログに掲載可能な制作事例案件を募集しております。詳しくはこちらのフォームよりお問い合わせください。

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